あの人は変わってくれる?~ドメスティックバイオレンスのからくり

最近アメリカで、YouTuberであり、SNSのインフルエンサー的存在であった女性が殺されるという痛ましい事件が起きました。この事件はたまたま、被害者の女性がソーシャルメディアを通して自分を発信していたことや、犯人であるかもしれない元婚約者が突然失踪したことで、多くの人々の注目を集めることになりました。もちろん、現時点で真犯人は発表されていませんし、失踪した元婚約者も結局亡くなってしまったので、真実は闇に包まれたままです。が、このカップルがドメスティックバイオレンスを経験していたことは周知の事実でした。そして残念ながら、こういった事件は何も珍しいことではありません。筆者もこれまで、ソーシャルワーカーとして、一人の日本人女性として、仕事でもプライベートでも、多くのドメスティックバイオレンスのケースを目撃してきました。

一般的に、カップル間で起こるドメスティックバイオレンス(以下DV)の被害者は約85%が女性です(統計は以下の本より抜粋:No Visible Bruises: What We Don’t Know About Domestic Violence Can Kill Us by Rachel Louise Snyder, 2019年出版。また、日本内閣府男女共同参画局の2019年統計も同じ結果) 。この数字によってわかることの一つは、単に男性の多くが性格的に悪者だということではなく、大体において男性の方が体が大きく力も強いので、男女間で身体的な喧嘩になった場合は女性が圧倒的に不利だ、というよく考えれば当たり前の事実です(大人と子供の関係において、大人から子供への虐待が圧倒的多数であるのと同じ)。それ以外にも、環境的に男性は加害者になりやすい面がありますので、その理由も含め、今回は、DVの加害者と被害者が陥りやすい心理をテーマにしていきたいと思います。

まず、DVの種類について説明します。バイオレンス、といっても必ずしも身体的な暴力だけがDVなのではありません。言葉の暴力(いわゆるモラハラ)や、パワハラ、セクハラなどのように、精神的に相手を追い詰めることや、性的な暴力ももちろんDVの中に含まれています。また、金銭的に家族やパートナーをコントロールすることもDVの一つの形です。実際のDVのケースは、このいくつかが組み合わさっていることが多いです。今回は、あなたやあなたの家族、友人がDVの被害者、もしくは加害者にならないために、そしてなってしまった場合に必要な知識を挙げていきます。

1.DVの種類

  • 身体的暴力 - 殴る、蹴る、つねる、噛む、体の一部を強く押したり引きずる、もしくは物を投げつける、などの行為。
  • 言葉の暴力 ー 相手や相手の大切なものを罵倒するような言葉や、何らかの脅し。
  • 性的な暴力 ー 相手が求めていない時に性的に相手に触れたり、性行為を強要したりすること。これは、例え相手と婚姻関係にあっても起こり得ます。
  • 金銭的な暴力 ー 相手の経済的な力をコントロールすること。

ここで、なぜ女性が被害者になりやすいかを考えてみましょう。今回は、男女の身体的な違い以外の、二つの社会的な理由を挙げてみました。

文化の影響 ー 文化的に、女性は男性の言うことを聞かなければならない、という風潮や法律がある国は多いですが、そのことが、自分の選択や心理に少なからず影響を与えている場合があります。たとえ法律で定められていなくとも、そういった風潮があるだけで、男性も女性も、無意識のうちに自分の中に思い込みができていたりするのです(例えば、家事や育児は女性が多くやらなければならない、という考えなど)。またアメリカ国内であれば、アジア人女性は男性の言うことを聞く、というステレオタイプのせいで、それが本当だと信じ込んでいる人も多くいます。そしてこういったことが、言い争いが起こる原因になる場合はよくあります。

経済的な理由 - これも上記の文化と被る部分がありますが、日本やアメリカを始めとして、多くの国で、まだまだ女性の賃金は男性と比べて低い状況にあります。特に出産後、女性が仕事を辞めたり減らしたりするケースが、男性と比べて非常に多い。ですから、そういったことで、カップル間のパワーバランスが崩れてしまうケースはたくさんあります。仕事をしていなければ外部との接触も減りますので、被害者がより孤立化してしまい、問題を誰にも相談できなかったり、心理的にネガティブになりやすいという事実もあります。

2.DV加害者の心理的サイクル

DV加害者は、一般的に、下に挙げた3つのサイクルをぐるぐる巡回する、と言われています。

  • 緊張期間 - ささいなことでイライラしたり、威圧的になり、最終的に怒りが爆発するまでのピリピリした期間。
  • 爆発期間 ー 怒りをコントロールできなくなり、激しい暴力として出てしまう期間。
  • ハネムーン期間 - 暴力を振るった後、被害者が離れていくのを防ぐため、もしくは暴力を振るった事実に対する後悔の念から突然優しくなる期間。

ここでもう一つ大切なポイントがあります。それは、多くの場合、加害者も昔ある時点で被害者であった可能性が非常に高いということです。上記の本に述べられているのですが、アメリカのある監獄の罪人たちの幼少期の家庭環境のリサーチが行われたことがありました。その結果は驚くべきことに、インタービューを受けたほぼ100%の罪人が子供の頃に何らかの虐待やネグレクトを受けていた、という事実でした。ですから、ある加害者がなぜ暴力を使って相手を攻撃したのかと考える時、その加害者は人生のある時点でそのような行為を誰にされたのか、と考える方が理にかなっているのかもしれません。もちろん、だからといってそのことが、自分よりも弱い立場の人間(男性ならば女性、大人ならば子供、そして若者ならば老人)に暴力を振るうことの言い訳になっては決していけませんが。

3.DV被害者の陥りやすい心理

下記は、よく耳にする被害者の方の思考サイクルです。自分、もしくは知り合いの誰かがこのような思い込みにとらわれていないか、チェックしてみて下さい。

  • 自責の念 ー 加害者の言葉を信じ込み、自分の考えが間違っている、もしくはすべて自分が悪い、と思い込んでしまう。結果、気が付けば相手のために言い訳をしている(例えば、私がこんなだから相手に暴力をふるわれても仕方がない、など)、という事態にもなりかねません。
  • 言い返しているから、強い自分は平気、という誤解 - 相手に対して言い返すことができたり、もしくは暴力でやり返すことができるからといって、DVが起きていないことにはなりません。このような場合は、相手から逆に訴えられたりと、事態がより複雑化してしまう場合が多いので、自己防衛は大切ですが、相手に同じことをしてしまわないように気を付けなければいけません。

最後に、前回のポストで少し触れましたが、DV加害者が変わってくれるのを待った方がいいのか、というテーマについて少し考えていきましょう。あなたが被害者であるならば、まず第一の質問は、相手の言動が自分にとって不快であるという事実をすでにその人物に伝えたか、というものです。自分では伝えている、と思っていても、相手は言語の問題によって理解していなかったり、誤解によって上手く伝わっていなかった、という可能性もあります。ですから、最初にやるべきことは、当たり前ですがきちんと話し合うことです。話し合いをしないでただ待っていても、永遠に状況は変わらないでしょう。

もし、かなりきつく言ったけれども、相手が話し合いに応じてくれない、すぐに暴言、暴力に走る、もしくは無視する、ということであれば、話は別です(*ここで注意しておきたいのが、その場では話を聞くけれど、結局行動は何も変わらない、というのも無視という行為に含まれます。行動が何も変わらないのであれば、やはり、それは何も聞いていないのと同じですから)。どれくらいの期間、あなたが我慢していたか、何度話し合いを持とうとしたか、にもよると思いますが、ほとんどの場合、相手が変わることはないのが現実です。つまり、待つのは無意味という場合が、残念ながら非常に多い。そしてそういった場合、辛い状況を打破するためには、そのような相手に見切りをつけてその人物のもとを去る、もしくは距離を置く、ということが必要になってきます。

けれども、これは簡単なことではありません。一つは、子供の問題。暴力的な相手と婚姻関係にあり、親権問題などが絡んでくるとなると、簡単には家族と離れられないという現実があるでしょう。そのような場合は、長期戦を覚悟して問題に取り組まなければなりませんが、最終的なゴールが見えているのといないのとでは、心理的に大きな違いが出てくるはずです。なぜなら、被害者が相手に見切りをつけた時点で、もう加害者が変わるのを「待って」いるのではなく、いつか離れるために「準備をして」いる、という立場にスイッチするのだから、その差は大きいです。また、たとえ現在の立場は変わらなくとも、将来的な目標があれば、少しでも心理的な助けになるかもしれません。そして、離れるのが口で言うほど簡単ではないもう一つの理由は、加害者が非常に暴力的になる可能性が一気に高まるのは、被害者が去ろうとした時、もしくは去った直後だからです。多くのDV殺人も、そのようなタイミングで起きています。去ろうとすることで加害者の暴力が酷くなる懸念がある場合は、入念に計画を立てて、様々な機関や家族からのサポートを確保してから相手のもとを去るのが理想的です。が、そういったサポートが受けられない人々や、そもそも金銭的な理由などで去ることができない人々が多くいるのも、また現実なのです。

もし、あなたもしくは被害者が安全に去るという選択ができる立場なら、そこで起こり得る二つの可能性があります。一つは、暴力的な相手から無事に逃れられるケース。もう一つは、そのような状況になって初めて、加害者が自分の問題に気付いて変わる努力を始めるケースです。後者には、カウンセリングやセラピーに行く、などの努力も含まれます。が、セラピーに行っても、加害者がすぐに180度変わるということは非常に難しいですので、これで一件落着、というケースは多くないかもしれません。ですから、あなた、もしくは被害者の方は、自分が人生で何を求めているのかをじっくり考えて、今後どうしたいかを決めることが必要になってきます。

今回のポストを読んだことによって、あなたが自分自身、もしくは友人の誰かを救えるかはわかりません。けれども、知識は時に命を守ることがあります。必要であれば、以下の機関を利用して下さい。

San Francisco Bay AreaのDVシェルター:Asian Women’s Shelter (日本語サポート有り。)電話した時に、履歴が残らないように別の名前が表示されます。(https://www.sfaws.org/)

アメリカ国内のホットライン:National Domestic Violence Hotline 1-800-799-7233 or 1-800-787-3224 (TTY for Deaf/Hard of Hearing) 24-hour hotline, 7 days a week, 365 days a year

日本の相談期間一覧:https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/soudankikan/index.html