声を上げることの大切さ

ご存じの方も多いかと思いますが、最近日本で、ジャニーズ事務所の過去の性虐待疑惑の問題が明るみに出てきました。この件そうもですが、性的虐待というものは、表に出るまでに相当な時間がかかります。アメリカ、カナダを中心に世界的に明らかになってきた、キリスト教の牧師などによる信者達(主に子供達)への性的虐待問題も然り、Me too運動に発展した、ハリウッドでの性的虐待・性的搾取問題も然り。これらの件では、最終的に勇気ある虐待サバイバーの方々が声を上げることができたものの、世の中には、まだまだ声を上げられていない人々もたくさんいます。

そこで今日は、性的虐待に限らず、何らかの被害にあっていて声を上げたい。それでも、様々な理由によってまだそれができない ー そのような場合、実際に声を上げるにはどのようなタイミングが良いのか、そのためには何が必要なのか、また、どのような心理的準備をしておけばいいのか、などについて書いてみたいと思います。

1.虐待に気付くこと

まず大前提として、現在形であっても過去形であっても、自分が虐待されている(いた)、もしくはコントロールされている(いた)、ということに気付き、そしてその事実を完全に認めることは、最初の大きな一歩でしょう。上記に記したジャニーズの件でも言われていましたが、グルーミングといって、虐待している立場の人物が、自分は尊敬に値するから虐待行為を行ってもOKなのだとか、虐待行為は当たり前のことだとかいう風に、被害者に信じ込ませたりすることも多いです。そうなると当然、被害者は声を上げるのを躊躇ってしまいます。これには各自が暮らす国や会社、家庭などでの文化が深く関係してきますので(例えば、男性は女性や子供を少しくらい邪見に扱っても良い、などという風潮や、目上の人物がもの凄い権力を持っている場合など)、物事を社会的な角度から見る視点も必要になってきますが、そういったからくり(つまり加害者によって巧妙に仕込まれた嘘)を見破る分析力が、まず必要になってきます。

2.タイミング

次に、自分が虐待されている、もしくはされていたことに気付き、声を上げたいと思ったとします。その際、声を上げる最適なタイミングを見極めるのは、数々の現実的な決断をしていく中でも一番重要なことかもしれません。

  • 安全 ー まず、自分が安全な場所にいるかを確認し、そうでなければ、安全を確保することは最低条件です。声を上げたことによって相手を怒らせてしまい、自分を今までよりも危険な状態に持っていくことになれば、逆効果であり、最悪の場合、殺されてしまうこともあり得ます。ですので、例え声を上げたくてたまらなくても、いつでもすぐにそうした方がいい、とは言えないのが現実です。虐待される期間が延びてしまうのは残念ですが、良いタイミングを待たなければ、一生声を上げることができなくなる、もしくは虐待の事実が闇に葬られてしまうかもしれません。ただ、どっちにしろ死の危険に晒されているのであれば、どちらを取るかはそれぞれの状況によるでしょう。
  • 効果的なタイミング ー 元ジャニーズJr.の岡本カウアンさんはインタビューで、自分が過去の性的虐待について話したタイミングと、BBCのドキュメンタリーが放送されたタイミングが近かったことは偶然の一致だとおっしゃっていました。それで、ある意味運命を感じたと。こういったことは運であり、コントロールは難しいかもしれません。でも、どちらかと言えば、私はこう考えます。それは、自分に運が向いてくるタイミングというのは誰にでも訪れるはずなので、そのタイミングが来た時に、逃さないように、いつでも心の準備をしておく。それが一番大切なことではないか、と。

3.サポート

周りのサポートも、声を上げる際に不可欠です。一口にサポートと言っても色々なものがありますので、ここではわかりやすくするため、違う種類のサポートを分けて記してみました。

  • 内部の仲間 ー 周りに同じように虐待されている人たちがいる(いた)場合、そういった人々を探し出し、繋がることができればとても強いと思います。大抵の加害者は、被害者を孤立させることに長けていますので、仲間を探すには忍耐力が必要かもしれません。また、自分以外のサバイバーが皆、声を上げたいと思っているとは限りません。でも、内部(もしくは同じサバイバー)の仲間を探すことは、大切なポイントでしょう。特に、虐待の事実が本当にあったかなかったかを周囲から疑われているならば、より多くの証言は、虐待の事実があったことを証明する手掛かりにもなります。
  • 外部の友人や家族、カウンセラーなど ー 声を上げるのは、自分が思っている以上にストレスになることです。下記に記していますが、助けを求めて声を上げているのに、「お前が悪いんだ」という風に、逆に責められるようなこともあるでしょう。そういった事態に対処するためにも、声を上げる前に、自分の味方になってくれる人達を周りに固めておくことは必須だと思います。また、そういった仲間に励まされることによって、声を上げよう、という決心が固まってくる、という作用もあるかと思います。上記に記したように、それは友達や家族、プロのセラピストやカウンセラー、というような人々が考えられます。要は、試合に行くアスリート達のように、助けとなる人々から成る「サポートチーム」を自分の周りに作っておく、ということです。それは自身にとって相当な励みになるし、あるとないとでは大違いでしょう。
  • メディアの力 ー もし時間と機会があれば、できるだけ影響力のある人間や機関に助けを求めてみるのも良いかと思います。それは恐らく、自分が思っている以上に大きな力になります。ジャニーズの件では、大手ニュースが何らかの権力を握られていて、テレビや新聞での報道がなされませんでした。実はこれは日本だけに限らず、外国でも起こっていることですが、それは裏を返せば、加害者がマスメディアの持つ力を知っていて、恐れているという風にも取れます。だからこそ、その力を封じたのでしょう。ただ最近ではインターネットができ、個人でも、既存のマスメディアと同じように情報を流すことができるようになりました。これは本当に凄いことです。加害者が、今までのように陰に隠れることが難しくなってきたのですから、大変良いことだと感じています。ただ、同じ人間でも、やはりネット上や社会的に影響力が大きい人と、そうでない人がいます。一個人で情報を流しても、多くの人が見てくれなければ、自己満足にはなるかもしれなくとも、社会を変えていったり、加害者の犯罪行為を止めさせることはできない、という側面もあります。こういったことも考え合わせ、自分がどれくらい多くの人に虐待の事実を知って欲しいのかを、まず考えてみることが大切ではないでしょうか。
  • 法律的なサポート ー これは住んでいる国や地域の状況にもよりますが、もちろん、警察や弁護士、法的機関を味方につけることができれば、立場的にさらに強くはなれるでしょう。ただ、場所によっては、加害者がこういった機関と強い繋がりがある場合もあります。ですので、自分の今いる地域の法的システムが機能しているかどうかを把握しておくことは、非常に重要です。もし機能していないならば、このような機関に頼らない方法を取るしかないかもしれません。なぜなら、システム自体が腐敗していては、そこに頼ると逆効果になるケースもあるからです。例えばアジア各国では、法律や文化が女性や子供の味方になっていない場合が多く、アメリカでは、人種的マイノリティーにとって損な状況が多いことは、隠れた周知の事実です。著者も、日本とアメリカ両方で、かなり正当性があっても、被害者が弱い立場であるために、言い分が裁判所で認められなかったというケースを目にしてきました。場合によっては国外脱出が必要になってくるケースもあり、著者は、過去にそうやって国外脱出された方の手助けをしたこともあります。

4.現実的な影響

  • 失うもの ー 声を上げることによって失うものがあることは、わかっておいた方がいいでしょう。そうして、行動を起こす前に、ある程度心の準備をしておくことは必要だと思います。日本では特に、「声を上げる」=「波風を立てる」と思われがちです。嫌なことがあっても声を上げずに、長いものに巻かれることが一番だと思っている人達の考えを変えるのは、至難の技です。そういった人達からくる攻撃のようなものも、想定しておかないとなりません。ただ、性的虐待はもちろん、それ以外の虐待、暴力、搾取、コントロールなどは、我慢のラインを超えているはずです。つまり、我慢をするメリットが、声を上げるメリットに比べて、全然少ないということです。この事実を忘れずにいれば、誰が正しいかの答えは、遅かれ早かれ自然と出てくるでしょう。例え家族に反対されても、あなたが正しいことを言っていれば、いずれ多くの心ある人々が味方してくれるはずです。つまりそれが、答えです。
  • 得るもの ー 私の考えは、声を上げることによって得られるのは、自分の人生、または自分自身だ、というものです。言い方を変えれば、声を上げること=自由を取り戻すことであり、自分の人生を取り戻すには声を上げるしかない ー そういう風な信念を持っている、ということです。これは良く考えれば当たり前のことですが、自分の考えを言わないということは、人の考えで生きている、ということです。それは恐らく、誰にとっても辛いことだと思うのです。ですから私は、声を上げると上げないでは、例え失うものがあったとしても、声を上げる方を勧めてしまいます。それは、より多くの人々に身体的、精神的な自由がもたらされることを心から願っているからです。

参考動画

Arc Times インタビュー【カウアン・オカモトさん(元ジャニーズJr.)、緊急インタビュー】ジャニー喜多川氏の「恐怖の館」/ジャニー氏の性加害による苦悩と、いま告発するわけ

NAKATA UNIVERSITY【Johnny’s and Child Abuse】A series of child abuse cases by Japan’s largest entertainment agency

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